ユニランが家に来た日

ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この世界にはポケモンという不思議な生き物が存在する。

私たちはこの不思議な生き物のことを、まだ何も知らない。

「ぷきゅる ぷきゅる」

薄い緑色の球体がふわふわと浮かんでいる。このポケモンはユニラン。先日友人のユーリから譲り受けた子だ。孵化余りだけど個体値は最高だから〜とよく分からないことを言いながら、半ば強引に押し付けられた。ポケモントレーナーの彼と違い、私は今までポケモンを育てたことはなかった。ポケモンを育てるということは、この子たちの生に責任を負うということだ。一人悠々自適に暮らす私にとっては難しいことだ――日頃からそう言っていたがついに引き受けてしまった。普段はおとなしい友人だが、好きなもののこととなると話が長い。分かった分かったと試しに1匹育てることにした。

「ぷきゅる ぷきゅる」

レベルは1。人に例えると産まれたての赤ん坊だと思うが、自力でふわふわと私の部屋の中を何かを探すように浮かんでいる。この子のタイプはエスパーというから、念力を使っているのだろう。ユニランと共に譲り受けた図鑑を見る。
〜特殊な 液体で 体が 包まれているため どんな 環境でも 生きられる〜
なるほど、確かにゼリー状のような液体の中にそら豆のような体、初めて育てるポケモンとしては育てやすいのかもしれない。

「ぷきゅる ぷきゅる」

…頭は良いようだがどうやら食いしんぼうなようだ。ユニランは台所をがさごそと漁っている。のうてんきな性格と聞いていたが、食いしんぼうな性格だったのか?個性だろうか?まあそろそろお昼の時間だし今日はカレーを作ってあげるとしよう。

「ぷきゅっ ぷきゅっ」

カレー粉に反応したのかユニランは小刻みに動きぶつかってきた。今のはくしゃみか?早く作れとせっついているのか?とっしんは覚えなかったはずだが…レベル1のとっしんである。全く痛くない。ふふっと笑みをこぼしながらちょっと待っててなと声を掛け料理を進める。

のうてんきな子はすっぱいものが好きらしいのでナナシのみを刻み煮込んでいく。先日テレビで見たズミ's キッチンでは、ノメルやベリブの実など希少な実を混ぜ合わせてポフィンを作っていたが、あれは難しそうだ。今度ユーリのやつにでも頼むとするか。そんなことを考えていた為、後ろで浮いていたユニランの動きに気付かなかった。

「ぷきゅっ!」

匂いに誘われたのか、ユニランが加熱中のカレー鍋に近付き触れてしまった。何してるの!と声をあげ手を伸ばすも間に合わず、緑色の液体が体から漏れ出た。急いで火を止め様子を見る。ダメージを受けてしまったようだ。外傷は見られないものの、浮くのをやめて私の手の中に収まっている。どうする──キズぐすりを──いやポケモンセンターに連れていくべきか?手の汗で滑りながらもモンスターボールにユニランを納め、対処方法を調べる。こんなことならもっと詳しく友人から話を聞いておくべきだった。まずはキズぐすりを試してみよう。それで様子を見て──最悪の状況も想定しながらもう一度モンスターボールを開閉すると、飛び出してきたのは──

「ぷきゅっ?」

体を弾ませながら勢いよく宙に浮いたユニランであった。

先ほどと様子が違う…?傍目にも弱っていたのが嘘であるかのようにふよふよと浮かんでいる。まだ何もしてないのにどうして…と考え、私は友人の話を思い出していた。この子の特性は「さいせいりょく」というらしい。一度ボールに戻すと体力を回復するという特性だ。そのおかげだろう。早くご飯を作れと言っているかのように元気よくぶつかってきた。はぁ、とユニランを腕の中に収めつつ一息つく。もちもちしてるなあお前は…と今初めてユニランに触ったことに気付いて、腕の中で暴れるこの小さな子のその不思議な触感に心を落ち着かせるのであった。

「ぷきゅっ♪ぷきゅっ♪」

出来上がったカレーを食べさせるとくるくると回ってはしゃいでいる。ゼリー状の液体を通って食べ物を吸い上げていく光景には驚いたが、どうやらお気に召したようだ。今まで1人でも不自由ない生活をしていたが、作った料理を食べてくれる相手がいるというのは嬉しいことだなと、初めて友人に感謝した。すると、浮遊していたユニランがぴたりと止まり、小刻みに震えながら、黒い粒々を体から出して宙に浮かせた。お手玉のように念力で動かしている。それは一体、図鑑でも見たことがないやつ…と戸惑う私を横目にユニランはくるくると再び回り出した。今度会う時はユーリの話を聞いてやろう…と思う私であった。

ポケットモンスター、縮めてポケモン。
この世界にはポケモンという不思議な生き物が存在する。

私たちはこの不思議な生き物のことを、まだ何も知らない。


https://pokemon.mastportal.info/@0724yuri/113606489076967172

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ユーリ
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